いつまで待っても誰も来ません
待ち人来たらず～万馬研太朗
曲作りを始める時に曲名が決まってしまっている場合は、曲のイメージというかストーリーがほぼ出来上がっているものですが‥‥。「待ち人来たらず」というこの曲名を決めた時には、ただ「待ち人来たらず」という曲を作ろう！と思いついただけで何の構想もありませんでした。
それは数年前に２つ先輩のＫさんに連れられて、とあるスナックに飲みに行った時の事。楽しくカラオケで歌っていると、カウンターの隅っこで飲んでいる一人の女性がいました。Ｋ先輩とも知り合いのようで、Ｙ子ちゃんと言うそう。歌はまずまずだけども愛想はいいので、男性客とデュエットしてとっても楽しそうでした。
ママさんに「Ｙ子さんは誰かを待っているのですか？」ときくと、「いつも１人よ！」と。「え～⁉、誰かいるんじゃないですか？」 「いつまで待ってもダ～レも来る訳ないでしょう」と、ひどいお言葉‥‥。その時です。「あっ、新曲のタイトル思いついた！」すかさずママさんが「何ていうの？」私は自信を持って「待ち人来たらず！」それを聞いたカウンターの一同大爆笑。といった忘れられない場面でした。（なぜか作詞作曲ノートの歌手名はＹ子ちゃんになっていました。）
さてさて仕事をしなくっちゃ。そもそも「待ち人来たらず」ってオミクジにありますよね。オミクジと言えば神社仏閣。そうだ、舞台は近所の小倉寺観音様のイメージでいこう。桜の季節に行った時の記憶を呼び戻せば、う～ん、細い急な石段とか、青いペンキが塗られた古い木製のベンチとか、赤い帽子被ったお地蔵さん。この辺りで来るはずのない恋人を待っている女。これでいきましょう。
そして出来上がった編曲前の曲は、もちょっとリズムっぽくてテンポが速かったのですが、編曲がアップしてビックリ！思ったよりスローテンポの和風仕立てではありませんか。流石に石井務さん、いつも作者の私よりも歌詞を深く読みこんでくれて音を創ってくれます。私が思ったものと違っているというよりも、同じ方向性のその先の何かを見つけて頂いて嬉しく思います。
いよいよ待ちかねた桜が咲いて、動画の撮影です。記憶の中の石段や青いベンチ、お地蔵さんはそのままに私を待っていてくれました。ご住職の奥様に、千手観音さまを見たいと伝えれば「500円」観覧料が必要との事。写真を撮りたいと言えば「撮影禁止」え～、なんだか「松島にて」の「カモメのエサやり禁止です」みたいな展開になってきましたが‥‥。パンフレットの写真は使っていいというので、それで我慢して下さいませ。
ところが、千手観音さまは空調の効いた立派な保存庫の中で、カギを開けないと見られないので、奥様と一緒にそこまで登って行くそうです。じゃ、すぐにとお願いすれば、「今、行って帰ってきたばかりで疲れているから、お茶でも飲んで待ってて下さい。」と、ありがたく茶をすすってしばらくすると、おじいさんと孫の二人連れがやってきて、奥様は重い腰を上げてくれました。
すると、その孫さんが神社仏閣やら仏像などにやたら詳しくて、おじいさんは大病を克服して復帰したという事で、孫とこうして散歩出来て満面の笑顔でした。動画の撮影にどこかに出かけると、いろんな人に出会って「旅は道連れ、世は情け」みたいな感じ。こういうの好きですね。
「水原川」の撮影の時も静岡から来たという3人のおばさんと、松川駅前からバス亭に案内したり。これは「水原川」の時に書きたいと思います。小倉寺観音は桜が満開の最高の１日でした。
プロフィール
万馬研太朗：福島県在住。多くの作品は福島や二本松を題材にして、演歌・歌謡曲・POPSの作詞・作曲を行っている。コミックソングも得意分野。演歌でも歌謡曲でもない、新しくもなく古くもない中間的なジャンルを提唱しており、中間歌謡曲と位置づけしている。すでに60作品以上YouTubeやニコニコ動画で配信されているが、代表作は「滝桜」「花筏～ハナイカダ」「黄昏のダンディ」「十三歳のサムライ」など。「イカニンジンの歌」は福島の地元アイドル「餃子っ娘ジュニア＆ひとくち餃子」に提供され、CMソングにも起用されている。また、自ら撮影した動画や写真は石井朗の名前で彩玉プロダクツへ提供している。
待ち人来たらず 歌詞
美しく咲き乱れる 桜の花は
強すぎる風をうらむも はらはらと散る
諸行無常 永遠なるものこの世にあらず
時は行く 春が行く 私を残して
待人来たらず おみくじ引かずとも
わかっているわ もう日が暮れる
一縷の望みを 末吉信じましょう
千手観音さま もう一度祈ります
夜桜は妖しいほど 闇に浮かんで
切なくて一人じゃとても 耐えられません
花よりも団子より あなたがいいと
笑ったのが夢のよう あなたが来ない夜
いつまで待ったら あなたに逢えるのか
わかっているわ もう来ないこと
それでもいもいの 私は待ってるわ
千手観音さま 何度も祈ります 何度も祈ります
