ツニーミュージックのブログ

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音楽は倉庫に眠らせてはいけない~石井務

 きっかけは、私が体調を崩して会社を長期休業している時でした。傷病手当を申請したものの入金されず、金銭的に苦しくなっていました。「さて、どうするか。そうだ、フリマで使わないCDを売ってしまおう!」私は100枚を超えるCDコレクションから、売れ筋と思われる比較的状態の良いものを手放すことにしました。「100枚で5万円になるかな?」しかし、数枚売りに出しましたが、何日経っても全く売れません。「これじゃ、明日の食事もままならぬ。そうだ、クラシック音楽は引退したので、使っていない楽器や楽譜も売りに出そう!」
 私はもともと地元のアマチュアオーケストラに入ってチェロを弾いていました。数年前に職場で異動になってから時間的に拘束される練習に参加しにくくなり、結局オーケストラを辞めてしまいました。チェロは3台あります。そのうちの1台は、20年ほど前に片手間でチェロを教えていて、その時習っている生徒に貸し出して以来、ほとんど弾いていませんでした。この楽器は学生時代に酷使していたため傷だらけでしたが、もともと明るい響きがするので、結構愛着だけはありました。悩んだ末、購入価格の半値ほどで売りに出すことを決意したのです。そして、チェロを教えていた頃に購入しておいた楽譜や教本もタンスの肥やしだったので、これも売ることにしました。「どうせ20年前の楽譜なんて、CDなんかより売れないだろう。定価の7割引きでいいか。」他のチェロ2台は万馬研太朗さんの作品で弾くことがあるので売りには出さず。娘が幼いころに習わせようと思ったけど、結局習うことなくしまってあったバイオリンも含めて、楽器合計3台、楽譜13種類の出品です。こして私のドラマが始まったのです。

万馬作品の中のチェロ演奏(農民画家)

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 最初に売れたのは、楽譜、それもチェロ教本でした。一番売れないと思っていただけに、社会のニーズはわからないもんだ~と思いました。その中で、一人だけ出品する度に即購入してくれる方がいました。「教本ばかりこんなにたくさん買って、きっとチェロの先生なんだろうか。」と思っていたら、先方が「今度引っ越して近くに移るので、チェロの先生を紹介して欲しい。」と言うのでした。「えっ?習っているの?」よくよく聞いてみると、私の家から一山越えたところに近日中に引っ越して来るとのこと。少し遠いのでチェロの先生の紹介はできませんでしたが、熱心にチェロを練習する向上心に心を打たれました。やっぱり、楽譜はタンスの肥やしにするのではなく、持つべき人が持ってこそ音楽になる、と実感した瞬間でした。
 楽器のほうは、「いいね」が多く、社会のニーズの高さが伺えました。しかし、本当に買いたいという人は少ないのでしょうか。売りに出して数日が経過していました。でも、さすがに12月。クリスマス前に問い合わせがありました。九州に住んでいる方で、年末に長野県の実家に帰省するので、ひょっとして近かったら買いに行きたい、と言うのです。私としても楽器は高価でデリケートなもの。宅急便で送るのは怖いと思っていました。「家の近くの駅まで来ていただけるのでしたら。」という条件で、引き渡すことにしました。同じ長野県とはいえ、購入者宅までは二山越えて2時間半。さすがに私も冬の道路が凍り付く中、購入者宅まで届けるわけにはいきません。先方から、「実家から意外と遠いですね。」とお話があったので、交通費の電車代+移動時間分を値引きすることにしました。これで、即決。3日間かけて念入りに楽器を磨き、準備万端。
 引き渡し当日。最初は「怖いおじさんだったらどうしよう・・・」と不安もありましたが、会ってみるとやさしそうな、上品できれいな女性でした。初対面にしては、さすがに音楽をやっている仲間だけあって、すぐに打ち解けて意気投合。先方が私の家の近くに親戚がおり、3歳になる子どもにチェロを見せてから帰りたいとのことでした。はじめはタクシーで行くと言っていたのですが、遠いところから足を運んでいただいたので、車で家まで送ることにしました。試奏もせずに購入だと、売り手として心配でもありますし。
 道に迷いながらも到着すると、購入者の叔母さん夫婦と、いとこのお姉さん、いとこの3歳になる娘らが出迎えてくれました。「何もないけど上がってください。良かったら食事でも食べて行って。」と。言われるがままにお邪魔して、楽器を見てもらいました。「何か演奏してください。」突然の無茶ぶりに、サン=サーンスの白鳥を弾いてみましたが、「う~~。腕が訛っていて弾けない~~。」購入者に説明しながら引き渡しました。購入者は初心者だと言っていましたが、もともとフルートをやっていた方で音感がとても良く、アドリブで童謡なんかを弾いていました。これには3歳の娘さんも大喜び。「この楽器、自分で弾くよりも、意外といい音だな。」なんて思いました。いとこのお姉さんも楽器に興味を持った様子で、にわかに私のチェロ教室が始まりました。楽器を教えるのは20年ぶりですが、チェロ教室をやっていた頃を思い出し、懐かしく、楽しい時間でした。
そろそろ、と思って帰ろうとすると、「いとこのためにバイオリンも欲しい。」という話題になりました。ちょうどフリマで、私の娘用に購入した未使用の初心者用のバイオリンですが、安く売りに出していました。送料がかからないと言うこともあって、少し値引きして即決。私はいったん家に帰り、バイオリンを積んでもう一度訪問しました。到着すると美味しいイタリア料理の準備までできていました。簡単にバイオリンの説明をして、食事をご馳走に。「あ~なんて幸せな一日だろう。」帰りには九州のお土産までいただいて、感激!。楽器を通じて、そこに居合わせたすべての人が幸せに感じるなんて、本当に売りに出して良かったと、つくづく実感しました。
購入者をはじめご親戚の皆さんに、私が以前ニコニコ動画にアップロードしたチェロ演奏動画、「ありがとうレター」を贈りたいと思います。本当にありがとうございました。

ありがとうレター

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引き続き、クラシックCDなど、フリマで多数販売していますので、是非ご利用ください。

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フリマで販売中。

プロフィール
石井務:長野県在住。福島県生まれ。ツニーミュージック作品全般で、編曲やミキシングを担当している。作曲も手掛け、「Fine ski holiday」「小さな紫色の花束に添えて」「飛べるよ、いつか」「ざくざく~二本松」などがある。また、てぃ~あいの名前で、「よい子に贈るよい子の歌集」ではコーラスを、「農民画家」ではチェロを担当している。