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オニヤンマの夏「かんのん丘陵」~万馬研太朗

 夏になるといつもラジオから流れてくる曲は、「♪君がいた夏は遠い夢の中~ 空に消えてった打ち上げ花火~」という曲。「夏祭り」だ。この曲が聴こえる季節になると懐かしく思い出す「ボクの夏」があります。それは「オニヤンマの夏」です。この思い出は、何か短い文章で童話みたいに書いてみたいと思っていたのですが、そんな能力も無いので、そのまま普通に書かせていただきます。

 子供の頃、ボクが住んでいたのは二本松市の「かんのん丘陵」の北側のふもと。南側はオモテ町、北側はカゲの町。南側には南小学校、北側には北小学校。その北小学校1年の時にボクとK君とS君は「かんのん丘陵」を越える大冒険に出たのです。南小学校で給食のおばちゃんをやっているというK君のお母さんに会いに行こうというのです。まったく道も無い森の中を滅茶苦茶に登って行くガキ共たち。下りは暗くて細くて怖い墓地の道を走り抜けて、やっとこさ南小学校に辿り着きました。三角巾をかぶったK君のお母さんは色白でとってもキレイな人で、ボクの母ちゃんとは全く別世界の人みたいで、無茶したボクたちを優しく叱ってくれました。こんな母ちゃんだったら何でも言う事をきくのに、と思ったボクでした。

 「オニヤンマの夏」は6年生の時の事。夏休みも近いある日、クラス1番のおボッチャマが虫カゴに入れた立派なオニヤンマを学校に持ってきて自慢しているのです。それをどうやって捕まえたのかと聞くと、朝早く北小学校の前の小川で羽化したのを採ったというのだ。「えっ!」そしたらこのオニヤンマは生まれて一度も空を飛ぶ事なく死んじゃうんじゃないの!

「放してやれよ!」

「いやだ!」

「かわいそうだろ‼」

「くやしかったらお前も捕ってみろ‼」ケンカになりました。

 その頃の時代にはキャッチ&リリースなんて言葉も無くて、鳥モチで捕ってベタベタの蝉を何匹も虫カゴに入れている奴もいて、かわいそうに思ったものです。ボクは従兄弟のY君と沢山の蝉を採っても、叔父さんに言われたとおりに最後に全部放すのがカッコイイし、楽しく終わる儀式みたいに思っていました。そんなボクには、カゴの中で死んでいくオニヤンマは哀しくてなりません。

 どうしたらいいんだろう。そして、ボクは決心しました。朝早くまだ暗い4時前に起きて、北小学校の前の小川で羽化するオニヤンマを1匹残らず全部採ってやる!誰かに捕られてカゴの中で死ぬなら、その前にボクが全部採ってしまえばいいんだ。家の前には大きなツツジの木がある。そこにズラッと止まらせて、羽が固まって青空に飛び立つまで守ってやるのだ。保育所の頃、誰よりも大きな声で歌って大好きだった歌「トンボのメガネ」を口ずさめば胸が熱くなります。

 羽化したばかりのオニヤンマは白っぽくて、とてもデリケートです。優しくつかまなければ羽を傷つけてしまいます。が、オニヤンマは掴まっている枝をはなしたら命とりなので必死につかまっています。優しくも、無理やりに引き離したら、手に持った1メートルぐらいの長い草を横にして止まらせます歩く時はゆっくりゆっくり、なるべく揺らさないように。初めての朝は4~5匹だったでしょうか、もうドキドキの体験です。こうして毎日ツツジの木に止まらせておくと、9時から10時頃に飛び立って行きます。おばあちゃんも心配して見ていてくれて、学校から帰ると「今日も元気に飛んで行ったよ。」と教えてくれます。曇りの日は特に心配で「1匹だけなかなか飛んでかなくてな、それでもお昼過ぎたら飛んで行ったよ。」そう聞けば、ほっとするボクでした。毎日毎日、最高記録は1日に15匹だっと思います。

 後に大人になってからの事。先輩のKYさんが中学生の時に、「こ~んな長い草にスゴイ数のオニヤンマをぶら下げているとんでもないガキを見たことがある。」と言うのです。「それ、このボクです。」と言ったら、「オマエか~~!何であんなに捕っていたんだ?」実は~かくかくしかじかで、と説明すれば、「お前ならやりそうな事だな!あの頃は良かったな~。今はもうあの小川はとっくの昔にコンクリートで蓋をされて歩道になっちまって、オニヤンマなんて1匹もいないよ。」

 でも、去年の夏に「かんのん丘陵遊歩道」で見たオニヤンマは、どこか近くの川で生まれたはずだから…。もしかしたら、あの夏にボクが守った(と思っている)100匹以上のオニヤンマたちのDNAを受け継いでいるかも知れないのだ。ずっと心の中で大切にしているボクの思い出「オニヤンマの夏」です。

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歌詞 かんのん丘陵 

君の町と僕の町を隔てている かんのん丘陵が無かったら

この町はもっともっと発展した ジイさんはいつも言ってる

だけど僕はこの山々走り回って 育ってきたんだ 大好きさ

うさぎ追いしあの山ふるさとさ 心の宝物さ

都会の暮らしに 疲れたら帰りたくなる

ショウコン山で昔歌った フォークソングが聴こえる

安達太良山に沈む夕日に 初恋の君を想い

涙流したあの頃が まるで昨日のように

 

オモテ町とカゲノ町と呼んでたのは もう昔の事だろう

この町は若者が創るんだと 頑張ってる友がいる

だけど僕はこの街を逃げ出して 好きな事して生きている

後ろめたさ感じて ふるさとに申し訳ないのさ

このごろ時々 綺麗な夢を見る

遊歩道に君が奏でる フルートが流れた

暑中見舞いに君は今でも 独りで暮らしていると

帰ろうか 今すぐに 君に会えるのならば

帰ろうか 今すぐに 君に会えるのならば

プロフィール

万馬研太朗福島県在住。多くの作品は福島や二本松を題材にして、演歌・歌謡曲・POPSの作詞・作曲を行っている。コミックソングも得意分野。演歌でも歌謡曲でもない、新しくもなく古くもない中間的なジャンルを提唱しており、中間歌謡曲と位置づけしている。すでに60作品以上YouTubeニコニコ動画で配信されているが、代表作は「滝桜」「花筏ハナイカダ」「黄昏のダンディ」「十三歳のサムライ」など。「イカニンジンの歌」は福島の地元アイドル「餃子っ娘ジュニア&ひとくち餃子」に提供され、CMソングにも起用されている。また、自ら撮影した動画や写真は石井朗の名前で彩玉プロダクツへ提供している。